受賞一覧
『個人的な体験』(こじんてきなたいけん)は、大江健三郎の小説。1964年(昭和39年)に新潮社より発行された。本書は第11回新潮社文学賞を受賞している。
大江健三郎の長男大江光が脳瘤(脳ヘルニア)のある障害者であり、その実体験をもとに、長男の誕生後間もなく書いた作品である。主人公は、脳瘤とおそらくそれによる脳障害を持つと思われる長男が産まれることにより、出生後数週の間に激しい葛藤をし、逃避、医師を介しての間接的殺害の決意、そして受容という経過を経る姿を描く。
本作は、新潮社の「純文学書き下ろし特別作品」として函入りで出版されているが、その函には以下の著者のメッセージが記されている。
「ぼくはすでに自分の言葉の世界にすみこんでいる様ざまな主題に、あらためて最も基本的なヤスリをかけようとした。すなわち、個人的な日常生活に癌のように芽ばえた異常を核にして、そのまわりに、欺瞞と正統、逃亡することと残りつづけること、みずからの死と他者の死、人間的な性と反・人間的な性というような命題を結晶させ、再検討することをねがったのである。大江健三郎」